映画『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり Alone again in Fukushima
』公式サイト
2月25日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

この映画について

生きること、生かし続けること

“ひとりでここに残ること”を決めた男の10年。“

世界を驚愕させた『ナオトひとりっきり』(2015)。カメラはその後もナオトを追い続けていた!
コロナの蔓延、東京オリンピックを経て、まだ終わらない福島は忘れ去られてしまうのか?

「オラ、何にも悪いことしてねぇ。悪いことしたのは国だべ」―原発事故による全町避難で無人地帯となった福島県富岡町に一人で暮らすナオトは、高度経済成長の裏側でカネに翻弄され続ける人生を送ってきた。原発事故後、人の人生を金で解決しようとする不条理、命を簡単に“処分”しようとする理不尽に納得できず、残った動物たちの世話をしはじめた。生きること、生かし続けること。その日々の闘いが、ナオトの生きる道となっていた。

あれから8年。新たな命が生まれ死んでいく中で、ナオトは変わらず動物たちに餌をやり日々を過ごしている。「将来の糧のため」ニワトリを飼い、蜜蜂を育て始めた。富岡町は帰還できる町となったが、若い人たちは戻ってこない。コロナ禍で無理やり開催されたオリンピックでは「復興五輪」のPRとして誰もいない福島の通りを聖火リレーが走った。

原発問題に終わりはない。汚染水はあふれかえり、ダダ漏れのように海上放出されるだろう。しかし全国で原発再稼働の動きは、粛々と進められようとしている。そんな日本の矛盾の渦中にある福島で、ナオトは今、動物たちとどんな思いで暮らしているのだろう。ナオトの生きかたを見つめながら、私たちの今を考える。

富岡町って、どんな町‥?

福島第一原発から12キロのところにある富岡町は近隣の双葉郡の町と同じく、40年以上前は、貧しい農村だった。農閑期には関東に出稼ぎに行かなければ生活ができない町だった。それが60年代末から始まった福島第一、第二原発の建設で町は潤い、町人は出稼ぎに行かず、地元で稼ぎ、豊かな生活ができるようになった。

2011

しかし2011年3月、原発事故により町は警戒区域となり、町民全員が家を追われ、家畜は全て殺処分が命じられた。2014年3月、政府は警戒区域の見直しを行い、ナオトの自宅とその近くにある牧場は「避難解除指示準備区域」となり、午前9時から午後3時まで出入りが自由になった。しかした町の大部分は「帰還困難区域」だった。

2015

2015年ごろから急ピッチで除染が進められ、海岸沿いで津波の被害に遭った駅前近くは、汚染物が入った無数の黒いフレコンバックで埋め尽くされ、巨大な焼却炉が建てられていた。

2017

2017年4月に町の一部が帰還宣言をしたが、戻ってきたのは高齢者がほとんどだった。2018年4月には富岡駅が開通し、富岡町の小学校と中学校が再開したが、新たに入学した子どもたちは数名だけだった。

2020

2020年4月、東京オリンピックに向けて、「帰還困難区域」にある夜ノ森駅が再建され、駅に行く道だけが開通された。福島から聖火ランナーが走り、「復興五輪」が華々しく開催される予定だったが、コロナの蔓延のためにオリンピックは延期になる。

2023年春、「帰還困難区域」にある「特定復興再生拠点区域」の
避難解除が進められている

監督について

原発事故から10年、コロナの蔓延、東京オリンピックを経て、
まだ終わらない福島は忘れ去られてしまうのか? 中村真夕(本作監督)

10年前の夏、ちょうど福島でドキュメンタリーを撮り始めた頃、東京オリンピックが決まった。ナオトさんと私はテレビを見ながら、「ああ、オリンピックの影で福島のことは忘れられてしまうね」と話していた。その後、オリンピックに合わせて、福島の「再建」は急ピッチで進んでいった。帰還困難区域にある夜ノ森駅が再建されて、無理やり道が通された。しかし2020年、コロナの蔓延でオリンピックが延期され、新しい建物は虚しく立っていた。「復興五輪」の入口として、福島は華々しく世界にお披露目される予定だった。ナオトさんは「これのどこが復興だ?建物が新しくなっただけで、人が帰ってねえべ。『復興五輪』なんてPRに使われて、地元からしたら、ふざけんなだ」と言っていた。そして震災から10年、色々なセレモニーが行われた。しかし参加した地元の人たちは少なく、ほとんどがマスコミだった。「震災10年が終わったら、また忘れられるな」と、ナオトさんはつぶやいた。でも原発事故は収束からほど遠い。あふれかえっている汚染水が太平洋に垂れ流されようとしている一方で、CO2削減が呼びかけられ、 全国で原発再稼働がじわじわと進められている。

そんな矛盾の渦中にある福島で、ナオトさんは相変わらず牛の世話をし、ヘビに卵を食べられながらも、野鳥の巣箱を作り続けている。おそらくナオトさんと私が生きているあいだに原発の問題は終わることはないだろう。人が置いてきぼりになっている形ばかりの「再建」を横目に、淡々といのちをつないできたナオトさんと動物たち。

原発事故から10年を経て、一旦、この映画をまとめようという話がプロデューサーの山上さんから出た。そして最後の取材には、ちゃんとカメラマンの辻さんに撮ってもらった方がいいと言われた。なぜなら私が自分でずっと一人で撮影してきたから、ナオトさんと私の関係性が画面に写っていないからだ。福島がまだ終わらない状況が続いている中、この映画をまとめることに、私は罪悪感を感じながらも、撮影を続けた。「原発事故から10年経って、今、何を思いますか?」と、私はナオトさんと半谷さんたちに尋ねた。そして彼らから驚愕の答えを聞いた。それはこの映画の中で、観客の皆さんに確かめてもらい、考えて欲しい。

撮影・監督・編集 - 中村真夕(なかむら・まゆ)

16歳で単身、ロンドンに留学。ロンドン大学を卒業後、ニューヨークに渡る。コロンビア大学大学院を卒業後、ニューヨーク大学大学院で映画を学ぶ。アメリカの永住権を持ち、今も東京とニューヨークを行き来して暮らす。2006年、高良健吾の映画デビュー作、「ハリヨの夏」で監督デビュー。釜山国際映画祭コンペティション部門に招待される。2011年、浜松の日系ブラジル人の若者たちを追った劇場用ドキュメンタリー映画「孤独なツバメたち〜デカセギの子どもに生まれて〜」を監督。2014年、ドキュメンタリー映画「ナオトひとりっきり」を監督。2015年モントリオール世界映画祭に招待され、全国公開される。

脚本協力作品としては第45回エミー賞ノミネート作品「東京裁判」 (NHK)29年度芸術祭参加作品がある。ドキュメンタリー映画「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」は2020年の2月にポレポレ東中野で異例の2週間連日満席記録を更新した。2022年春、黒沢あすか、神尾楓珠主演の劇映画「親密な他人」を公開。本作は第34回東京国際映画祭のNippon Cinema Now部門に正式招待される。最新作は劇映画「ワタシの中の彼女」。

公式ホームページ:http://mayunakamura.com

コメント

「 感動しました、巨大な事実を小さな事実を通して長年個人的に追うことで、 現実にひそむ真実が見えてきます。人間も他の生き物と同じ限られたいのちを生きていることを感じさせるドキュメントです。」 ― 谷川俊太郎、詩人

「福島原発事故で、本当に日本の半分が、あるいは全部が壊滅してもおかしくない寸前だった。そのような非常に厳しい環境の中で動物の世話しながら暮らすナオトさんの勇気に感服し、動物たちや自然をけがしてしまった人間の罪深さを改めて感じた」

― 菅直人、元内閣総理大臣

「ナオトさんの言う『ムカつくだっぺ』『ふざけんなって言いたくなる』にすっかり同調しながら見た。でも、その視線を借りている自分は、もしかしたら、ナオトさんの視線に入っている側なのかもしれない。そして、この戸惑いや危うさを感じるのが、実に久しぶりであるという情けなさを噛み締めておきたい」

― 武田砂鉄、ライター

「この町、人、動物たち、ここにあった生き物たちの美しい営みは、置き去りにされてしまった、のではない。わたしたちが置き去りにしたのだ。どうすればいい。どんな答えも、完全な善でも悪でもない。だから考え続ける」

 

― 坂本美雨、ミュージシャン

上映情報

都道府県 上映会場 電話番号 公開日 備考
東京都 イメージフォーラム 03-5766-0114 2023年2月25日(土)
神奈川県 横浜シネマリン 045-341-3180 2023年3月4日(土)